父になる

絶対に出産には立ち会いたい。その願いを叶えるためミッチは里帰りをせず九州での出産を決めてくれた。妊娠の時間は二人にとって、それはそれはゆっくりとした穏やかな時間だった。日に日に大きくなる妻の身体の変化に、生命の凄さと愛おしさを感じずにはいられなかった。産婦人科の検診には毎回ついて行き、お腹の中の命をエコー画面を通して確認し、高まる気持ちをおさえつつベビー服等はなるべく買わないようにした。僕等なりの安産祈願だった。秋の終わりにいよいよ出産をむかえた、会社を休み万全で備えたが、実際僕の出来る事はほとんど何もなかった、その無力さを感じる事が立ち会い出産の醍醐味なのだ。陣痛が始まり、歩く事すら可愛そうなミッチを見ていたら、この先の出産はとんでもねー事が起きそうだと容易に感じれた。〜中略〜長い長い陣痛の末 オギャーと産声を聞いた時、赤ちゃんの誕生よりまずは妻の無事が何より嬉しかった。出産とは大変、それは男がいくら頑張っても到底それには敵わないものである。ヘトヘトになった妻とフラフラの僕はそれでもこの僕等のちいさな家族を優しい目で見て微笑んだ。まだまだ未熟な二人で父にも母にもなれていないのだけど、これから僕は父に、ミッチは母に、
そしてとんでもない事が始まった。ただそう感じた事は覚えている。それくらい目まぐるしかった。

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